GENROQ 2022年2月号

日本の技術と情熱が支える世界一幸せなカレラGT

 それは間違いなく歴史に残る名作だ。V10エンジンをミッドシップする次世代レースカーの研究開発に端を発して、2003年に世界限定1270台で発売されたポルシェ・カレラGTである。

 内燃機関はおしなべてダウンサイジングされるだけでなく、もはや電動化に向かう昨今だからこそ、5.7ℓV10エンジンの魅力が冴え渡る。いや、それだけではない。カーボンファイバー製モノコックや、その後方にあるパワーユニット搭載用のサブフレームを主構造とするシャシー、そこに備わるプッシュロッド式のサスペンションなどは、おしなべて911GT1譲上質かつ流麗な雰囲気やインテリアの豪華なしつらえを見たら高性能グランツーリスモのようだが、その実像は硬派なピュアスポーツカーである。

 このカレラGTに惚れ込み、カスタマイズに取り組んだのがロベルタだった。ボタンひとつで瞬時に車高を上げることで、スーパーカー勢を日常に解放するリフターシステムのブランドとして広く知られている。しかし、彼らの手数はそれだけではない。昔の限られたスペシャルモデルに対して、限定的にボディパーツを開発してきた。

 カレラGTもそのうちの1台だった。「もし、カレラGTがその後も正常進化を続け、現代流にアップデートしたら」という構想のもとに生み出したボディパーツである。その考え方は実車を目の当たりにすると、すんなりと理解できる。

 開口部をより大きく取り、なおかつ前方向に30mほど延長しながらシャープな表情へと導いたフロントバンパーは、今見てもまったく旧さを感じさせない。2021年に登場したポルシェの新型だと言っても違和感ないくらいだ。

 サイドディフューザーはフラットに見えながら、実際は弧を描くようにシェイプし、ボディ全体をよりグラマラスに引き立てている。リヤは垂直のディフューザーをテールエンドまで延長して整流効果を高めたほか、純正の可変リヤウイングを活かす格好でフィンをオントップした。そのすべてが純正のスタイリングをリスペクトしながら、さらなる個性と新鮮さを加えたかのようだ。

 純正さながらの雰囲気を備えた“新型カレラGT”に思えるのは、単にデザイン性だけではない。国内最高峰の生産技術を駆使したカーボン素材は、美しく強靭で、耐久性も抜群だ。取り付け精度の高さを含めて、まるでポルシェ純正スポーツパッケージのような落ち着きをたたえる。純正のボディパーツと同じ取り付け位置を使ってビス留めしているので、ボディ側の加工が一切不要だという点も、この希少性を前にしたら嬉しいポイントだと思う。

 自らのアイデアを存分に投入しながら、あくまで自動車メーカーの思想をリスペクトし、固有の魅力をそっと引き立てる。カレラGTにはロベルタの哲学が完璧に表現されていた。ロベルタの看板商品であるリフターシステムだってその考え方は同じだ。そのモデルが持ちうる固有の走行性能を犠牲にせず、足まわり自体のセッティングを自分たちで煮詰めながら、日常性を確保したリフターである。もし走りは二の次で、車高を上げるだけのリフターだとしたら、世のスーパーカーユーザーたちは決して満足しないだろう。

 現在、世界中に残存するカレラGTは、その多くがガレージで眠っているか、ミュージアムで飾られるような個体ばかりのはずだ。今でも積極的に走り回っている個体など、そう多くはないと予測される。しかし、ロベルタ自身が仕上げたこの個体は違う。いつでも全開で踏み抜ける状態を維持していて、実際にストリートを駆け巡る機会も少なくないという。そうした意味では、この15年間以上、ちゃんとカレラGTと向きあってきた。希少性云々に関係なく楽しんでこそポルシェの魅力が際立つのだとすれば、この個体は世界一幸せなカレラGTだと思えた。

GENROQ 2022年2月号より

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媒体名:GENROQ 2022年2月号